映画『名もなき野良犬の輪舞』応援記事置き場

2018年5月公開の映画『名もなき野良犬の輪舞 (原題:不汗党) 』応援用ブログです。翻訳は素人です。

【ビョン・ソンヒョン監督インタビュー】cine21 No.1105

ビョン・ソンヒョン監督インタビュー

出典:cine21 No.1105 2017/5/16

原文:

 

※本文中、ネタバレ部分は翻訳の掲載を省略しています。

※今回の翻訳掲載分に作品内容や展開に関するネタバレはないですが、本作に関していかなる先入観も持ちたくない場合は、作品鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。

 

 

 

ノワールの皮をかぶったメロ映画を作りたかった」

 

図体が自身の三倍にもなる相手の頬を少しもひるむことなく張り倒す『不汗党:悪い奴らの世界』の「革新的なトライ(頭のネジが飛んでるヤツ)」ヒョンス(イム・シワン)のように、ビョン・ソンヒョン監督は20代のうちからひるむことなく映画と言う世界とタイマンで闘った。20代の青年として語りたかったことを初映画『青春とビート、そして秘密のビデオ』(2010)に込め、テレフォンセックスを題材とした映画『マイPSパートナー』(2012)で挑発し、新たなジャンル的渇望からノワール映画『不汗党』を作った。(ネタバレにつき中略)ノワール映画でありながらメロ映画の感情の流れに沿うこの映画は、手慣れた素振りで新たな試みを続けてみせる。その試みの賜物か、『不汗党』は今年(2017年)カンヌ国際映画祭ミッドナイトスクリーニング部門に招待された。カンヌに発つ前に、ビョン・ソンヒョン監督に会った。


―『不汗党』がカンヌ国際映画祭ミッドナイトスクリーニング部門に招待された。カンヌでの上映を予想したか。

まったく。映画祭に行こうと思って作った映画ではなく、商業映画として作ったので、予想はしていなかった。映画社からカンヌに出品すると言われたときもただ「そうですか」と答えた(笑)。招請の知らせを聞いた日は酒もそれなりに飲んだけど、今は落ち着いた気持ちだ。仕事をしていれば良いことも悪いことも起こるものだが、その中でただ、とても嬉しいことがひとつ起きたんだと思う。今後も映画祭が好むような映画を作ろうという気はない。

 

―デビュー作『青春とビート、そして秘密のビデオ』はヒップホップを題材とした青春映画、『マイPSパートナー』はテレフォンセックスを題材にしたロマンティックコメディだった。三番目の映画『不汗党』は前出の作品とジャンル的にかなり違う位置にある映画だ。二編の映画を撮った後、どのような映画的渇望、欲求があったのか。

『青春とビート』のときから持っていた目標が、それぞれジャンルの異なる長編映画を5本撮る、ということだった。監督は俳優や他のパートのスタッフに比べて、関われる映画が多くない。それなら多様なジャンルを試してみたかった。『マイPSパートナー』を撮っていた頃から『不汗党』を構想していたが、当時撮影現場でもずっとそういう話をしていた。次の映画は絶対に男たちの映画を撮ると。

 

―何故男の映画だったのか。

『マイPSパートナー』のとき、ふわっとした感情シーンを撮りながら何がOKで何がNGか自分で分からないことがあった。なので、ずっとスクリプターの女性に聞いていた。「これ可愛らしいと思う?俺はちょっと気持ち悪い気がするんだけど、どう?」。ふんわりしている感情シーンに関して確信を持てないので、次は僕が観客として楽しんできたジャンル、今とは反対の地点にある映画をやりたいという気持ちが生まれた。

 

―この映画の出発点は。

まず、ジャンル的にアプローチして作った映画は『不汗党』が初めてだ。外皮はノワールだが、(中身は)メロの感情を持って進んでいく映画であればと思った。(中略)二人の登場人物の関係の話としてアプローチしていく映画のスタイルについて、スタッフと一緒に長い間頭を悩ませた。

 

―(中略)ジャンル的に(先行作品が多いため)身動きできる幅が狭くならざるを得ない状況で、勝機をどこに得ようとしたか。

もちろんジャンルの慣習を避け通ることはできない。それができるほどの天才ならよかったけど、そうではないので。なので、スタイルを差別点としよう、今まで韓国映画で見られなかったルックを作ってみようと思った。コンテ作業に特に力を注いだ。プリプロダクションの期間が三ヶ月だったが、その間ほぼずっとコンテ作業だけにかかりきりになっていたと思う。シナリオを書きながら、ノワール映画でなくメロ映画を見続けた。作品数としてはノワールのほうが多いけれど、繰り返し観たのはメロだった。『Love Letter』(1995)『ジョゼと虎と魚たち』(2002)『8月のクリスマス』(1998)などの映画をかけっぱなしにしながらシナリオを書いた。メロの感情に酔い続けていようと。

 

―それは役に立ったか。

役立ったと思う。その映画から何かを参考にしようというのではなく、メロの感情を留めておくことが重要だった。二人の人物の感情をずっと考えていなければならなかったから。個人的には、ジェホのヒョンスに対する感情はあるかたちの愛だと考えた。

 

―先程の話のように、映画は裏切りではなく友情を語ることを選択する。「人を信じるな、状況を信じろ」「俺が誰を信じられると思う?」という台詞が繰り返されるが、結局それは、信頼についてを浮かび上がらせるためだったのではないかと感じる。

(中略)疑いと裏切りによって広がっていく緊張感をもっと取り入れなくてはならないのでは、という話もあった。だけどそれでは他の映画と変わらないだろう。(映画の中で)話の時系列を入れ替えているが、そうやって過去と現在を交差させたのも、関係性のタイミング、信頼のタイミングについて語りたかったためだ。生きていればそういうのがあるだろう、タイミングさえよければうまくいった関係みたいなもの。仕事も恋愛も、タイミングが合わずにねじれ、すれ違うことが多い。罪悪感もそういうところからはじまる感情だと思った。先に話した通り、外皮はノワールだが、シナリオを書くときは恋愛ものと思って書いたので、映画を観てそういう感情が感じられたら、僕としては成功だと思う。


-コンテ作業の中で新しいルックについて欲があったということだったが、美術や撮影など、ありきたりな画を避けようという努力の痕が其処此処に見られた。1シーン1シーンごと、シーン自体の完成度にも非常に神経を使ったようだった。

シーンの完成度が高く見えたのなら、それはマスターショット撮影(編集を考慮し同一の場面をサイズやアングルを変えて撮影すること)をやらなかったためだ。序盤にはむしろ俳優たちが、これしか撮らなくていいのかと心配するほどだった。現場では、自分が考えた通りにしか編集しようがないように撮る。スムーズに進んでいたらコンテの通りに撮るタイプだ。現場での即興性はあまり追求しない。そうやってシーンの密度を上げるようにし、俳優たちも次第に僕のやり方を好むようになっていった。無駄なエネルギーの消耗を減らせるし、集中もできるから。

 

―刑務所内の大男とのビンタの張り合いも、アメリカのドラマで見るような絵面であって韓国の刑務所を考えたとき簡単に思い浮かぶものではなかった。

ハン・アルム美術監督との初ミーティングのとき、これは現実に則った映画じゃないとお伝えした。リアリティを追求する映画ではないと。すでにオープニングから銃が登場するじゃないか。(中略)だから、(オープニングの)以降に少し思い切った表現をしても大丈夫だろうと思った。それで刑務所も、韓国では見られないスタイルの刑務所を作ってくれと話した。鉄格子とベッドのある監獄でもいいと。韓国の状況や実情に合わせずに、少し異国的な雰囲気を出していこうと。

 

―アクションシーンで一番力を入れたのは後半で起こるチェ船長の事務室での乱闘劇だろうと感じたが、(同シーンから)パク・チャヌクの『オールドボーイ』(2003)の金槌シーンも連想された。

まず、漫画的なのが良さそうだと思った。例えばソル・ギョング先輩が男を一発殴ったとき、その人がぐるりと一回転するようなアクション。ところが、ホ・ミョンヘン武術監督と初めて会ったときにその話をしたら溜め息をつかれた(笑)。あまりに漫画的すぎじゃないかと。僕が既存のものとは違う方式で撮りたがっていることを掴んでからは、ホ・ミョンヘン武術監督もアクションの和より映画の呼吸をより重視しながら作業してくださった。チェ船長の事務室のアクションシーンもそうやって生まれた。チェ・ヒョンレ撮影監督とはこういう話をした、カメラを水平方向にのみ動かすと『オールドボーイ』への言及が出てきそうだから、カメラを一回転させてみようと。そしたら撮影監督が言うには「何でそこでカメラを回すんです?」。アングルでもカメラワークでも意図をとても大事に考えるひとなので「何となく」がない(笑)。ちなみに、パク・チャヌク監督の『オールドボーイ』はあまりにクラシックで、非常に優れたアクションシーンなので、もしあの場面を見て『オールドボーイ』が連想されたとしても別に構いはしない。あのシーンはただ、アクションが楽しそうに見えたらいい。

 

―漫画的なスタイルとノワール映画の感情が衝突するのではという憂慮はなかったか。

周囲の人は心配していたが、僕は心配しなかった。むしろぶつかり合うのが面白そうだと思った。正直ありきたりな話やジャンルであり得るから、そうやって少しずつでもひねりを加えることで、観客も「考えながら撮ったんだな」と思えるんじゃないか。たくさん悩みながら、誠意を込めて撮った映画として観てくださったら嬉しい。

 

―キャスティングもやはり、予想の外にあった。イム・シワンはこれまで、男性的な魅力やアクション俳優としてのイメージを見せたことのなかった役者だ。

だからキャスティングした。これまで見せたことのない姿を見せることができるから。それに根本的に演技が上手く、真情性を感じさせる俳優だ。彼が泣くと、泣く演技が上手いんだなというのではなく胸にぐっとくるものがある。最初から重々しく男性的な姿を見せると固く映るかもしれないと思ったが、徐々にキャラクターが変化する姿を見せれば、観客も十分に受け入れるだろうと考えた。それから、顔がすごく良かった。撮りながら「人はどうしたらこんなにイケメンになれるんだろう」と思った。ソル・ギョング先輩もとても良い顔をされているが、意外と「イケてる」キャラクターを演じてはいなかった。十分にジャンル的に格好良い顔だ。

 

―年齢差のある先輩、後輩と仕事するにあたり、それなりのコミュニケーション技術も必要だったと思うが。

自分のディレクションがどういうスタイルか、自分ではよく分からない。ソル先輩は淡白で正確なので良いと言ってくださりはしたが、実は演技指導するとき少し怖気付いた。僕の考えと俳優の考えが違ったらどうしようと。ところがソル先輩は、口では僕の要求を聞かないようなことを言いながら、撮影に入るとディレクションした通りに演技する。多分、監督のディレクションを最も正確に守る俳優ではないかと思う。台詞の助詞ひとつ違えることなく、シナリオの三点リーダまで全て忠実に演技する。少し驚いたので、酒の席でそこまで忠実にやらなくてもいいと、気楽に演じていいと言ったら「監督は僕よりたくさん考えてきただろう、監督の意図の通りにやらないと」とおっしゃった。

 

―撮影中、酒もよく飲んだか。

70回に満たなかっただろう撮影中に、80回は飲んだと思う(笑)。俳優陣はダイエットもしなければならず体も作る必要があったのであまり多くは飲めず、主にスタッフたちと集まった。たまに無理して飲んだ日は、僕はソル先輩を言い訳にしソル先輩は監督が責任を負うものだと言って。そのせいで現場でのあだ名が「ソル・クネ」と「ビョン・スンシル」だった(笑)。もちろん、気楽で親しい関係なのでそんな冗談も言える。権威的なものとは無縁の現場だった。今回の現場は少し特別だった。『マイPSパートナー』を撮っていたときは、酒は一度も飲まなかった。

 

―次期作として書いたシナリオがあるということだが。

1960〜70年代を背景とした政治劇だ。最近政治ものが多く作られているので、似ているという話が出るかもしれないが、やはりどう違いを出せるかが要になりそうだ。メロ映画をやってみたいという気持ちもある。『不汗党』も一種のメロと考えて作ったが、しっかりとしたメロ、最近は目にしなくなってしまった伝統的なメロも撮りたい。

 

翻訳:@TheMercilessJPF

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